Spring has come Omake

ゆらと出会ったのは高校生の頃。他の女の子よりも落ち着いた雰囲気を持っていて、同い年とは思えないぐらい大人びた印象を持った女の子だった。目と目が合うだけで胸が躍り、会話をするだけでその日一日がなんだかハッピーにさえ思えた。だから、ゆらと恋人になれた時は、夢でも見ている様な気分だった。
陽平たちとノリで受けたオーディションに一人受かって俺たちの関係が秘密になった時は、そこまでしてゆらが俺たちのことを隠す理由がよく分からなかった。だって俺がこの頃立てていた人生設計では、大学行って、就職して、いつかゆらと結婚する―――っていうシンプルな人生設計だったから、ゆらのようにそこまで真剣に先のことなんて考えてなかった。
結局、俺はあの頃立てていた人生設計を何一つ実行することは出来ないまま大人になってしまった。大学には行かなかったし、就職先は何故か芸能界。おまけに仕事を頑張れば頑張るだけゆらとの結婚は遠のくばかり……。俺にとったらマイナスしかない仕事だったのに、会える時間が減っても、デートする場所がなくなっても、手を繋ぐことさえ出来なくなっても、ゆらは文句も言わず隣にいてくれた。
ただそれだけが励みだった。
やりたくない嫌な仕事があっても、どれだけ疲れていても、ゆらが笑ってくれているだけで、俺の世界は輝いていた。
時には、ゆらを苦しめ、泣かせて、繋いでいた手を離してしまったこともあったけど、それでもゆらは俺がいいと言ってくれて今でも俺の側にいてくれている。
これからも俺は、ゆらの笑顔を守りたい。
それだけは、今も昔も変わらない俺のささやかな願い。
だって、ゆらが笑えば、自分も幸せになれるから…………


マンションの近くに出来たパン屋へ出かけることが、密かな楽しみだった。毎朝ではないが、仕事が休みだったり、時間に余裕があったりする時は焼きたてのパンを食べたくて、散歩がてら買いに行く。ゆらはいつも「面倒くさい」と文句を言っているが、そこの店にあるハニーフランスという小さな細長いフランスパンの中にシュガーバターとはちみつがたっぷり塗ってあるパンがお気に入りなのを知っている。でもそれを俺に悟られたくなくて、仕方なくついていってあげている。という相変わらずのツンデレ態度がまた可愛いんだけどね。

「昨日、紗月と電話してたんだけど、昼間のテレビで私たちのこと取りあげられてたらしいよ」

パン屋へと向かう途中で、昨日の紗月との電話を思いだしたらしく俺に教えてくれた。

「なんて?」
「“初めての結婚記念日は、二人で仲良く手繋ぎデート”だって」
「新婚なんだから手ぐらい繋ぐっつーの。なぁ」

ゆらは楽しそうにクスクス笑いながら言い、俺は繋いでいたゆらの手の甲にチュッと軽くキスを落した。

「どこの店に入ったとか、何食べたとか、探偵並みに知られてたみたい」
「暇なんだな。やつらも」
「ということはさ、あの木彫りの変なカッパの置き物を買ったこともバレてるよ」
「変って言うな」
「あんな変なカッパに1万も出すなんて信じらんない」
「うっせーよ。あのカッパは記念日ごとに増えていくんだよ」
「やだぁ……最悪」

ゆらは顔をしかめながら言った。
あんなに可愛いカッパの良さがわからないんなんて……。

「あ、そうだ。紗月二人目出来たらしいよ」
「マジで?ついに陽平も二児のパパかぁ……。そういえば最近奈帆にも会ってないなぁ……」
「なっちゃん、スターダストがテレビに出たら一緒に踊ってるんだって」
「マジで?なんて可愛い女なんだ。奈帆は」
「そんななっちゃんは、最近恭介から日向くんに心変わりしたって言ってた」
「なに?!」
「この間ライブ見に行った時に、楽屋で日向くんからお菓子もらったんだって。それで大好きになったらしいよ」
「まさかお菓子一つで奈帆を日向に奪われるとは……」

と、がっくりと肩を落としながら俺が言ったら隣にいるゆらは「バカじゃないの……」と呆れていたが、さらに言葉を続けて、「まさか一緒になるとは思わなかったなぁ……」と言った。

「ゆらも何気に俺より日向が好きだもんな。ゆらもお菓子に釣られたか?」
「いや、日向くんじゃなくて……」
「なんだよ」
「うちの子と紗月たちの子どもが同級生になるのかぁ…と思って」
「……はい?今、なんて?」

思わず歩いていた足を止めて聞き返した。

「だから、うちの子と一緒だなって」
「……うちの子?」
「うちの子」

ゆらは手を繋いでいない右手を自分のお腹にあてて言った。

「ええっ!!ゆら……ええ――ッ!!」

驚きを隠せないほどの重大発言をこんな道端であっさりとしたゆらに思わず大きな声が出てしまった。
住宅街のど真ん中で、度肝を抜かれていた俺に気がついた制服を着た通学途中の男子学生3人に、「朝比奈恭介だ」と顔が差してしまったのは言うまでもない。

「すげぇ!マジやべぇ!本物じゃん?」
「あ、隣にいるの奥さんじゃねぇの?めっちゃ綺麗じゃん」
「すげぇ!まじすげぇ!!お宝ツーショット!!」

テンションが上がっている彼らの言葉に、俺とゆらは思わず顔を見合わせて笑みが漏れる。

「おまえら覚えとけ。スリーショットだ」

俺が男子学生を指差して自慢げに言うと、ゆらがバシっと俺の頭を叩き、「バカ」と言い、俺の手を引っ張り足早に歩き始める。彼らに「じゃあな」と手を振った後、俺は急に嬉しさが込み上げてきた。

「ゆら、どうしよう。俺、マジで嬉しいんだけど」
「喜んでもらえて良かった」
「やべぇ……泣きそう」
「わかったから。今泣かないでよ。恥ずかしいから」
「ダメだ……涙が溢れてきた」


朝比奈恭介。
今、最高に幸せです!


END
2013/8/4


ここまで「この恋の結末」をご愛読下さり、ありがとうございました。
このBonus Trackを持ちまして、この物語は終了となります。
二人に関してはもう全てを出し切ったので、ここから先の二人の未来はご想像にお任せします。
私の想像では、いつまでも仲良くやってるんじゃないかな。と思っています。
あの遊園地にも親子で行くんではないでしょうか。