Chapter.7 この恋の結末は

「奈帆(なほ)ちゃん、はじめまして。ゆらです。これからよろしくね」

紗月たちの赤ちゃん――奈帆ちゃんが生まれてから2ヵ月あまりがあっていた。中々遊びに行けなかった紗月たちの家へ少し遅めの出産祝いを持参してお邪魔していた。この間まで大人仕様だった部屋も今ではすっかり子ども仕様な部屋に変わっていて、写真立てには奈帆ちゃんの写真が飾られてあったり、おむつなどのベビーグッズが部屋の隅に置いてあったりして、奈帆ちゃん中心の生活に変わったんだなぁと感じた。
紗月に抱かれているまだ2ヵ月近くの小さな奈帆ちゃんが、見えているのかどうかわからない潤んだ大きな瞳を開けて私を見ている。彼女に私はどんな風に映っているのだろうか?人差し指でこちょこちょと小さな手に触れると力いっぱい私の人差し指を握る。たったそれだけのことなのに、思わず顔がゆるんでしまう。当たり前なんだけど、どことなく二人に似ていているのが神秘を感じる。

「ゆら、抱いてみる?」
「ええっ?大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。この子大人しいから。お茶淹れてる間だけでも抱いてて」

紗月から奈帆ちゃんをおそるおそる受け取り、こわごわと抱きかかえた。抱き方がお母さんと違うからか、少し泣きそうな表情を見せていたが、何度かあやしてあげると泣かずに落ち着いた表情を見せてくれた。

「可愛いね……」
「陽平なんかすでに親バカ発揮してるよ」

紗月はキッチンに入り、コーヒーを淹れる準備をしながら言った。

「陽平らしい。でもこんなに可愛いんだもん、親バカになるよね」
「ゆらもさぁ、さっさと溝部さんと結婚して子ども産めば?」

紗月はニコッと笑って言ったのに対して、私は思わず顔を曇らせてしまう。

「……ああ……陽平から聞いてない?」
「え?何を?」

紗月は何も聞いていなかったような感じで、きょとんとしていた。

「……もう、溝部さんとは会ってないの」
「なんで?!仲良さそうにしてたじゃない」
「うん……まぁ色々あってね。私が全部悪いんだけどさ……」
「…………ねぇ、まさかと思うけど……それに恭介絡んでないよね?」

紗月は言った後に、淹れたてのコーヒーをトレイに乗せてこちらへとやってきた。

「ダメだよねぇ……。3年経っても全然消えないなんて……ホントバカでしょ」

私は視線を抱っこしている奈帆ちゃんに落した。私の腕の中で無邪気に眠っている奈帆ちゃんを見ると泣けてきた。ポタッポタッと涙が奈帆ちゃんの服の上に落ちる。

「バカじゃないよ。10年も一緒にいたんだよ?たった3年で全部忘れるなんて無理に決まってるじゃない」
「……ん……うん……ごめ……最近、恭介の話すると涙線弱い……」

零れ落ちる涙を止めるため顔を上げて、指でぬぐった。それを見ていた紗月はティッシュの箱をテーブルの上に置いてくれた。

「恭介と会いなよ。会って話すればいいじゃない」

私は首を横に振り、「できない……」と答えて、ティッシュを1枚手にした。

「なんで?」
「怖い……。恭介がもう私以外の誰かと恋愛してるかもしれない……って思うと……怖くて出来ない」
「じゃあ、どうするの?そうやって恭介の想い抱えて、その想いが消えるのを待つっていうの?」
「……だってしょうがないじゃない。ここにくっきり残って消えないんだもん……」

胸のあたりを指差して言った。

「思うんだけどさぁ……自分の仕事を犠牲にしてまで手に入れようとした恋愛を、そう簡単に忘れられるのかなぁ?」
「え……?」
「だって、全てを投げ捨ててまでゆらと結婚したがってたんでしょ?そんな人が3年で次の人にいけると思う?」
「…………」
「私は、恭介も同じ想いを抱えてると思うけどなぁ……・」
「まさか……」
「でも意外だなぁ……」
「なにが?」
「ゆらがそんなに恭介のこと好きだったなんて……意外」
「私も……別れてから気がついたよ」
「バカだね」
「バカだよ」

恭介の温もりも、愛情も、存在も、もう二度と手に入れることは出来ない。
でも仕方がない。
自分で決断して手放した恋なんだから……


紗月の家に遊びにいってから2週間後、あの坂の上の図書館がついに移転した。取り壊し工事は3月下旬から始まるらしく、私がもう一度あの図書館に立ち寄った時は、立ち入り禁止の札が貼られていた。想い出が多い場所だけに寂しいのは否めない。図書館の中に入らなくても夕暮れ時の光景は、変わらなかった。この場所は今度児童館へと生まれ変わると石原が言っていた。きっと子どもたちがこの辺りを走り回ったりして賑わうんだろうなぁと思う。
そうやって時間が過ぎていき新しい歴史が生まれて行くというのに、私の時間だけは止まっているように感じていた。この3年間進む速度が遅いと感じてはいたけれど、2ヵ月前に恭介に会って確実に止まったように感じる。

『もしもし、ゆら?遅くなってごめんね。もう図書館にいるよね?』

立ち入り禁止になっている図書館の前で紗月と待ち合わせをしていた。なんでも奈帆ちゃんを実家に預けてこっちにくる用事があったから、久しぶりにこの近くのお店で食事をしようと誘われた。「育児の息抜きにも付き合ってよ」と言うのでOKしたんだけど、待ち合わせ時間から軽く30分以上経った時にようやく紗月から電話がかかってきた。

「うん。どうしたの?奈帆ちゃんグズっちゃった?」
『―――ごめん!今日、私そっちに行かないの』
「ん?どういうこと……?」
『実はさ、今日そこに行くのは…………恭介なの』

紗月の言葉に私の心臓はドキンとものすごい音を鳴らした。

「え…?ちょ、ちょっと……どういうこと?」
『この間、ゆら遊びに来てくれたでしょ』
「うん」
『その5日後ぐらいに恭介うちに遊びに来てくれてね』
「うん」
『色々話聞いて…………ゆらたちやっぱり一度きちんと話合った方がいいと思ったの。だから……ごめん。おせっかいやいた』
「ちょっと、紗月」
『本当ごめん。だけど、ゆらのことは何一つ話してないから安心して。ちゃんと自分の口から言って欲しいと思ったから』
「…………」
『それでね。恭介もそこにゆらがいること知らないの。陽平がいると思ってるの』
「え……?恭介も騙してるの?」
『うん。その方がいいと思って……。それでね、さっき恭介から陽平宛てにメールがきたらしくって、仕事が押しててあと1時間ぐらい掛かるみたいなんだ』
「うん……」
『帰るのも待つのもゆらの自由だけど、恭介に言いたいことがあるならこれを機会に言った方が良いと思う。ゆらはさ、いつも相手の事を思って自分の気持ちを押し殺してるところあるじゃない。そんなことばっかりやってるから、自分の幸せ掴めないんだからね』
「……うん」
『欲しいものは欲しい!って、言うことも大事なんだからね』
「……ふふ……うん……紗月、ありがとう」
『じゃあ、結果だけまた後で教えてね。今度は正直に教えてよ。頑張って!』

そう言って紗月は電話を切った。
私の胸の中は急に騒ぎだした。あと1時間程で恭介が此処にくる。
私はどうするの―――――?

1時間近く図書館横にある公園のベンチに座っていた。いつの間にか日が暮れてしまって外灯に明かりが灯り始め、グラウンドで遊んでいた子ども達もいなくなっていた。
ずっとここに座って考えていたけど、答えはまだ曖昧で正解に導いてくれない。
私は一体どうしたらいいのか…………考えれば考えるだけエンドレスな答えに導かれる。
胸の鼓動が強くて息苦しいし、喉の奥から本当の気持ちが溢れ出そうで怖い。
言ってはいけない言葉を言いそうで怖い。
今にでも泣きそうなこの想いをどうしたらいいのか……わからない。

―――――それでも、私はこの場所から動けない。

「ゆら」

名前を呼ばれて顔をうつむけて考えていた顔をゆっくりとあげた。
目の前には黒の長袖Tシャツの上からオフホワイトのジップアップパーカーを羽織ってパーカーのフードを被り、サングラスをかけた恭介がゆっくりと歩いてこちらへとやってきた。
胸の鼓動が高鳴り、思わず立ち上がる。

「もしかして……ずっと待ってた?」

恭介は私の近くにくると、頭に被っていたパーカーのフードを取ってサングラスを外した。

「うん……」
「ごめんな。仕事で遅くなって」
「……なんで私がここにいるってわかったの?」
「さっき陽平に電話したら、ゆらが待ってるかもしれないって言うから……」
「それで探してくれたの?」
「ゆらなら絶対どこかで待ってる気がしたから。でもまぁ、すぐ見つかったけど」

恭介はニコッと微笑んだ。
久しぶりに見た恭介の笑顔に胸が音をたてて鼓動を加速して行く。

「…………」
「しかし、俺たちってあいつらに騙されすぎじゃねぇ?高校ん時も色々騙された気がするし……俺たちって学習能力ないよな」

恭介は私が今まで座っていたベンチの隣のベンチに腰掛けた。

「仕事……忙しそうだね」

私はまた今まで座っていたベンチに腰掛けた。

「おかげさまで。もうすぐツアーも始まるから、結構忙しいよ」
「そっか……」
「…………あのさ、俺、ゆらに報告したいことあるんだけど……聞いてくれる?」
「なに?」

私は隣のベンチに座る恭介の方を見た。恭介は私の方を見ずにじっと前を向いて話し始めた。

「俺、ゆらと別れてからしばらく本当に全然ダメで。無気力っつーの?生きてる感じがしないぐらい落ちてたんだよね。そしたらある日、マネージャ-がさ、『時間かけてじっくり読め』って言って、段ボール箱いっぱいに入った大量のファンレター持って来たんだよ。まぁ、やることなかったから毎日ファンレター読んだよ。今までそんなに真剣に読んだこと無かったけど、時間はあったし、一枚一枚じっくり丁寧に読んでみたんだ。そしたらさ、俺の復帰を心から願ってる想いが綴られてあったり、励ましてくれている内容だったり、俺という存在が必要なんだっていうことが書いてあったりしてさ、胸が熱くなって…………自然と涙が出たよ。人の暖かさに触れたっつーか………心に明かりが灯ったみたいにあったかくなった。こんなに俺のことを想ってくれている人がいるのに、今まで何をやってたんだろうってめちゃくちゃ反省して、応援してくれる人の声に真剣に応えたいって思った」
「うん……」
「ゆらには言ってなかったけど、あの当時メンバーとも上手くいってなくてさ……。まぁ、俺が『辞めたい、辞めたい』言ってたのが悪いんだけど。きちんとメンバーにも今までのことを謝罪して、思ってることを全部話して、何度も話し合って、時間かかったけど、また一緒に頑張っていこうって言ってくれた」
「うん……」
「ゆら。俺、ちゃんと自分がやってる仕事に向き合ったから……」

恭介は話し終えた後、私の方を見た。

「うん。テレビで見る限りだけど、最近の恭介もスターダストも雰囲気が良くなったように感じる。ちゃんと頑張ってるって見えてた」
「ありがとう。ゆらにはどうしても報告したかったんだ」

言った後に恭介はニコッと笑顔をくれた。 

「どうして?」
「迷惑かけたから。それに……辛いことさせたし」
「別に何もしてないよ……」
「ごめんな。俺のためにあんなこと言わせて……本当にごめん」

恭介は私に頭を下げたから、私は首を横に振った。

「謝られることはしてない。あれは私の意志だから」
「あれがゆらの意志だったら、あの時あんなに泣かないだろ」
「…………」
「―――まぁ、とにかく、俺、仕事頑張ってるから」

恭介はまた笑顔を見せて言った。

「うん……。これからも頑張ってね。応援してるから」

今度は私が笑顔で言う。

「ありがとう。ゆらはこの3年間どうだった?何か変わった?」
「私は――……何も変わらないよ。相変わらずだよ」

恭介の想いが残ったままだよ。なんて言えるわけもなく、笑顔を作って言った。

「…………恋愛は?」

恭介はじっと私の方を見て言う。

「…………してるよ」

笑顔を作って言って、溢れそうな想いに蓋をした。
仕事を頑張っていると言っている恭介の邪魔は出来ないと思ったし、恭介がすでに他の人を好きだったら―――と思うと、やっぱり怖くて口には出来ずに嘘をついた。

「……そっか。今度こそ幸せになれるといいな」
「ありがとう」
「――――じゃあ、そろそろ行くな。別れた二人が食事するってのもなんだかおかしいし」

少しの沈黙の後、恭介は立ち上がって言い、私はそれに思わず笑みを浮かべる。

「送ってやれないけど……帰れるよな?」
「うん……。あ、あのさ、最後に一つだけ質問していい?」
「なに?」
「どうして……あの図書館に通ってたの?時々行ってたんでしょ……?」
「ゆらはどんな答えを望んでる?」
「どんなって………」

言葉を詰まらせていると、「――――ゆらを困らせるだけだから俺の答えは聞かない方がいいよ」と言った。
恭介の言葉の意味が理解出来なかったが、結局、恭介はそれ以上何も言わなかったので答えは曖昧なままになってしまった。

「ゆら―――最後にさ、握手しない?」
「握手?」
「うん。最後の握手。俺たちもう会うこともないでしょ」

恭介が言った“会うこともない”という言葉が刃物のように心の真ん中に突き刺さる。
好きな人に言われると、こんなに痛いものだなんて知らなかった………

「……うん」

立ち上がり恭介の前まで行って右手を出すと恭介は私の手をぎゅっと握った。
暖かくて大きな手は、あの頃より逞しく感じた。
きっと大事なものをたくさん掴んでいるのだろう。

「これで本当にさよならだな」
「……そうだね」

恭介の言葉にとどめを刺された気分になり、反射的に顔をうつむけてしまい、しっかり握りあっている手を見た後に顔を上げた。

「ゆら、元気でな」
「恭介も元気でね」

お互い笑顔で言い、ゆっくりと握っていた手が離れる。
恭介は鞄を肩にかけて、「じゃあな」と言うと私に背を向けて歩き始めた。
私はただ去っていく恭介の背中を見送りながら、泣きそうなのを気付かれたくなくて泣くのをずっと堪えた。恭介の背中が小さくなって姿が見えなくなった時、涙が頬を伝った。足の力が抜けたように体がぐらつきベンチに座ると、両手で泣き顔を隠すように覆い泣いた。

好きだと言いたい相手に伝えたくてたまらない。
それを押さえるのに必死で喉の奥がぎゅうぎゅう苦しくて、その言葉を飲み込むことがこんなに苦痛だなんて初めて知った。
最後に一度だけでもいいから伝えたい。

好き

そのたった2文字を恭介に伝えたい。
拒絶されてもなんでもいい。
とにかくこの想いを伝えて、この恋に結末を迎えさせたい。
もうこれ以上この想いを抱えるのは辛くて嫌なのに………………足がすくんで追いかけることすら出来ない。






「なんで泣いてんだよ」



しばらく経った後、その声に私はゆっくりと顔を上げて前を見た。
目の前には去って行ったばかりの恭介の姿があった。

「ゆらは今、恋愛してて幸せになるんだろ?だったら何も泣く必要ないじゃん」

ゆっくりとベンチの前に来ると、涙が止まらず泣いている私に、「泣いてる理由教えてよ」と言った。
それでも黙って口を開かなかった私に苛立ち、「ああ――!もう!ゆらは本当マジで頑固だな。泣いてないで本当のこと言えよ。バカゆら」と言った。

「言えない」

首を横に振り、それでも私は言わなかった。

「だったら泣くなよ。俺にバレないように上手に嘘つけよ。気持ち悪い笑顔浮かべてさ、ゆらの嘘なんかバレバレだっつうの。何年付き合ってたと思ってんだよ」
「だって仕方ないじゃない。怖いんだから………。恭介がもう私のことなんか忘れて違う人を好きになってたらって考えたら……怖くて言えるわけない」

恭介は呆れた顔をしながら、大きな溜息を一つ落す。
その場にしゃがみこむと、私の両手を握った。

「俺がゆら以外の女を好きになるわけないだろ」

まっすぐに私を見て言った言葉に涙が誘われ、抑えきれず声がもれる。
泣いて何も言えない私を前に恭介は言葉を続けた。

「…………ゆら。俺はもうあの頃の俺じゃない。ちゃんと仕事と向き合ってる。だからもう簡単にはスターダストは捨てられない。それでもゆらが、俺と一緒にいたいって言うのなら―――――スターダストの朝比奈恭介も受け入れて欲しい。ゆらはずっと間近で見ていた分、応援はしてくれてただろうけど、スターダストの俺をどこか受け入れてない部分があっただろ?でもさ、悪いけど……スターダストの俺も、目の前にいる俺も、全部俺なんだよね。スターダストの俺を受け入れるってことは、何かあったらまたゆらを世間の目にさらしてしまうかも知れない。ゆらにしたら怖いだろうけど、俺はそういう世界で生きるってもう覚悟を決めたから。……だから俺と一緒にいたいなら、ゆらも覚悟決めて。それが出来ないなら、俺たちはもう……本当に会わない方がいい」

恭介の胸の内を聞いて、もう私たちが“好き”という感情だけで進むことは出来ないんだと感じた。
3年前のあの別れ話の時に、『仕事をすればするだけ遠くに感じる』と言っていた恭介はもうどこにも見当たらない。
そうならないように、はぐられないように、一緒に手と手を取り合って一緒に行こう。とさえ聞こえる。

「……恭介、あの別れ話の時に言ったでしょ?『仕事をすればするだけ遠くに感じる』って。私も同じ。恭介の人気が上がれば上がるだけ……遠くに感じてた。でも、それをね、恭介に気づかれたくなくて……ずっと心の中に蓋をして隠してた。そしたら……いつのまにかスターダストの恭介を見ることが出来なくなってた…………だから、ちゃんと見ていなかった分、あの騒動が怖かった。恭介が背負っているもの全部を肌で感じて……怖かった。…………だから、あの別れ話は私の本音だよ……・」
「………」
「だけどね……今はそれ以上に辛い……恭介を手放してしまったことが凄く辛い…………恭介がもう一度チャンスをくれるなら……今度は逃げない。ちゃんと全部受け止める。スターダストの恭介も目の前にいる恭介も全部受け止めるから……一緒にいさせて欲しい。恭介の隣にいさせて下さい」

言った後、頭を下げた。

「言っとくけど、結婚なんて当分出来ないよ?それでもいいの?」

私は下げていた頭を上げて、真っ直ぐに恭介を見ると、「恭介がずっと変わらず私を愛してくれるなら……それでいい」と言った。

恭介は小さく微笑んだ後に、「それは一番自信があるよ」と言った。
恭介の言葉に嬉しくて思わず笑みがこぼれる。

恭介は私の両手を繋いだまま立ち上がり、ぐいっと私の手を引っ張ると私をベンチから立たせた。

「ゆら、好きだよ」

恭介の告白に私は少し照れながら微笑み、「そんなの知ってる」と答える。

「相変わらず可愛くねぇなぁ」

恭介はぷにゅっと私の鼻の頭をつまんだ。

「恭介……」
「ん?」
「抱きしめてもいい?」

恭介はフッと小さい微笑んだ後に、「いいよ」と言った後に両手を広げた。
恭介に飛びつくように胸の中へ飛び込むと、恭介が離れないようにしっかりと私を抱きしめた。私も答えるように恭介の首に腕をまわして、離れていた3年分の想いを全部伝えるように、二人の体温を感じるように、固く抱きあった。ぎゅっと抱きしめてくれる恭介の腕の中は、3年離れていても世界で一番落ち着く場所だった。

「もう勝手に離れていくなよ。ゆら」
「うん……」

ゆっくり顔を離して二人で照れくさそうに微笑み合った後、3年分の想いをこめてくちづけを交わして――――二人で泣いた。


初めて手を繋いで歩いたこと。
初めてキスをしたこと。
初めて肌を重ねて温もりを感じ合えたこと。
友人に嘘をついて心を痛めたこと。
二人の関係が秘密になったこと。
デビューする前日、二人で手を繋いで河川敷を歩いたこと。
恭介が初めてテレビに出た日、二人でテレビの前でドキドキしながら見たこと。
初めてのライブの日は、恭介が失敗しないか心配で発表会を見守る保護者な気分になったこと。
アイドルの恭介と私が知っている恭介のギャップに戸惑ったこと。
ちょっとした意見の食い違いでケンカになって、中々仲直りが出来なかったこと。
お互い時間が作れず会えない日々が続いたこと。
3年間離れて寂しかったこと

色んなことが二人の歴史となっている。
これからも私たちにはいろんな試練が待ち受けているかもしれない。
それでも、私は恭介と一緒にいたい。



(完) 2013/5/5