Spring has come(2)

同窓会が行われた場所は、通っていた高校の近所の商店街の中にある居酒屋だった。クラスメートがやっているお店でこの日のために店は貸し切りになっていた。アルミ製の片引き戸の開かない部分に手書きで書かれた『本日貸し切り』という張り紙と、『逢沢南高校2年3組同窓会会場』という張り紙が張られていた。店内は1階のみの居酒屋でお座敷席やテーブル席、カウンター席などがあり、20人近くのクラスメートが集まっても少しまだ余裕はありそうな感じだった。
久しぶりに会うクラスメートにみんなテンション高く、いろんな話をして盛り上がっていた。30歳も過ぎると、紗月たちのように結婚して子どもがいる子もいれば、離婚した子や再婚した子もいる。実業家になった子や家業を継いだ子もいたりと職種も様々で、あの頃みんな同じ教室でバカやっていたりしたのに、みんなそれぞれ自分の道を歩んでいるんだなぁ……と感慨深くなる。

「ねぇ、恭介は――?」

奥の座敷の方でお酒も入ってほろ酔い加減の女の子が、恭介の登場を今か今かと首を長くして待っているようだったが、欠席だと聞くと、「信じらんないし!今日すっごく楽しみにしてたのに―――!!」と声を上げていた。その声を聞いていた紗月は私に耳打ちするように、「あの子、恭介のこと好きだったもんね」と言う。私は紗月の耳打ちも聞き流すように焼き鳥片手に、「へぇ」と返事した。すると紗月は、「気になるくせに」と肘で突いてきたので突き返したりしてじゃれあっていたら、「ねぇ、ゆらってさ、朝比奈と付き合ってた?よく紗月と福沢の4人でいたよね?」と、目の前に座っていたゆっちゃんが言った。

「私もそれ気になってた」

ゆっちゃんの隣に座っていた知里(ちさと)がゆっちゃんの方を見ながら言う。
二人は興味津々に私の方を見て答えを待っているようだったので、「付き合ってないよ」と、私は否定した。

「そうなの?てっきりゆらだと思ってたのに」

と、知里が言った後に紗月が私と顔を見合わせて、「……え?なにが?」と聞いていた。

「ほら、何年か前にさ、朝比奈の熱愛報道あったじゃん?あれって、てっきりゆらなんだと思ってた」
「私も思ってた。だって、朝比奈が特別仲良くしてた子って、ゆらと紗月ぐらいしか思い浮かばなかったもん」
「だよね。でも紗月は福沢と付き合ってたから、消去法でゆらだって思ってた。じゃあ、朝比奈が高校の時から付き合ってた子って誰?」

彼女たちの話を聞いて驚いたけど、何故か笑えた。
今まで完璧に恭介とのことは隠してきたつもりでいたけど、他人から見るとこうやってボロが出ていたんだなぁ……と思うと可笑しくて笑える。紗月たちにまで交際の事実を隠し通して苦しい思いをしていたのはなんだったんだろう……と思うと、バカらしく思えた。
うつむきながら自然と込み上げてくる笑いを漏らしている私を横で見ていた紗月から、「気持ち悪いんだけど……」と言われたが、思い出し笑いのようにニヤけてくる笑いを止められなかった。

「ところで――ゆらは結婚してるの?」

ゆっちゃんが聞いてきたので、「ううん。してない」と答える。

「じゃあ、彼氏は?」
「―――いるよ」

恭介と言わなければいいか。と思って言ったら、二人のテンションは何故か上がり「彼氏の写メとかないの?」「見たい見たい」と盛り上がるも、さすがに写真を見せることは出来ないから、「ない」と答えた。

「ええ――?1枚ぐらいあるでしょ。探してよ」

どうしても見たいらしいので、仕方なく携帯電話を取り出した。横で紗月が心配そうな表情で私を見ているが、私はフォルダーから写真を選ぶも、恭介の写真なんて滅多に撮らないから数枚しかなく、酔っぱらってリビングで大の字になって寝ている恭介を激写した時の写真と、恭介の誕生日にケーキを作ってお祝いした時の恭介とケーキの写真と、先週の早朝に二人で散歩に出かけた時に撮った写真しかなかった。さすがに顔が写っているのは見せられない……と、フォルダーの中をあさっていると1枚適切な写真があった。

「こんな感じ……?」

私は二人に向けて携帯電話の画面を見せた。2人は顔を携帯電話に近づける。
二人に見せた写真は冷蔵庫のドアを開けて恭介の横顔が半分以上隠れて冷蔵庫の中を物色している写真で、少しだけ見えているボサボサの髪にTシャツとスウェット姿という完全にオフスタイルだった。

「……なにこれ。なんでこんな写真撮ってんの?」

ゆっちゃんは期待外れの写真にがっかりしながら言う。

「間違って押しちゃった写真」

私は、「ははは」と笑いをつけたした。

「顔どころか、全然何も分からないんだけど……」

と、知里もがっかりしていた。

「……ダメ?」
「もっとはっきり写ってる顔ないの?」
「ごめん。本当に写真撮らないからない。次回会う時は用意しておきます」

携帯電話を覗きこんだ紗月は恭介の写真を見て、ぷっと笑いをもらして「オーラゼロじゃん」と言った。
私は「私の前ではオーラなくていいの」と言いながら携帯電話を鞄にしまおうとした時、メールの着信音が鳴った。メールを見ると恭介からで、ホテルにチェックインしたらしく今日泊まるホテルの部屋番号が記載されたメールだった。メールを読み終えた時に陽平がいる座敷の席から急に黄色い声が上がり、「恭介――!元気かぁぁ!!」と言う声が聞こえた。どうやら陽平が恭介に電話をしたようで、盛り上がっていた。恭介からの電話だと知ったゆっちゃんと知里も陽平たちの席へと向かい、みんなが一つのテーブルに集まって陽平の電話を取り合っている。

「恭介、こっちこいよ。今からでも間に合う!」
「恭介、会いたいよぉぉ――!!」

男女関係なく恭介が来るのを楽しみに待っているその風景を少し離れて座っている席から見ていたら、学生時代のことを思いだした。
恭介はいつも教室で人の集まる中心にいた。
大きな口を開けて笑って、みんなと一緒にバカやったりして楽しそうに過ごしていた。

「謎なんだよねぇ……」

私が思わず呟くと、紗月は「なにが?」と言う。

「恭介が私を好きなこと」
「はぁ?」
「だってさ、どう見ても私と恭介って対照的じゃない。紗月たちとの絡みが無かったら一番関わらないタイプじゃん。なのに、ずっと私の隣にいるんだよねぇ……謎だと思わない?」
「私に聞かれても困るし。本人に聞きなよ」

紗月は目の前にあった瓶ビールを手に取ると、私のグラスに注いだ。

「それにしても愛されてるよねぇ……」
「なにが?」
「誕生日前日から一緒にいて、誕生日の日は丸々1日一緒にいるんでしょ?愛されてるじゃん。陽平なんか結婚してからそういうのドライになったし……釣った女にエサをやらないタイプだよ」

後半ぶつぶつと陽平の愚痴を言いながら、今度は自分のグラスにビールを注いだ。

「私たちだってたまたま今回休みだったってだけで、いつもそうしてるわけじゃないよ」
「それでも祝ってくれるっていう気持ちが嬉しいよね」
「まぁね」
「そんなゆらに―――私からも誕生日プレゼントあげようかな」

と、言って紗月は微笑む。

「え?なに?」

紗月は軽く咳払いして、私の両肩に手を乗せると口を開いた。

「『ゆらの誕生日がくる度に、俺以外の男と一緒なのかなって思うと嫉妬する』」
「………は?何言ってんの?」

紗月が言った言葉の意味が分からなかった。

「あんたたちが寄り戻す前に、恭介が言った言葉。愛されてるよね」

恭介本人が言ったわけじゃないのに、胸の中が弾み、顔が自然と緩んでしまう。
それを紗月に知られたくなくて、グラスに入ったビールを一気に飲み干した。
私の行動を見ていた紗月は、「あは。ゆら、顔赤いよ?照れてんの?」と言い、赤くなっている頬を指で突いた。

「うるさい。うるさい」
「可愛いね〜」

照れながら紗月の手を払いのけた後、目の前の瓶ビールを手に取ると手酌で自分のグラスに注いでまたそれをぐいっと飲んだ。
紗月は恥ずかしくて照れている私を見て、笑っていた。
私も、恭介の誕生日がくる度に、今年は誰かと一緒に過ごしているのかな……?と、思っていた。ずっと当たり前のように一緒に祝っていた誕生日に、自分が参加出来ないことが悲しくて……涙したこともある。
恭介も私と同じ想いを抱えていてくれたことが素直に嬉しかったんだけど、それを他人に知られることが恥ずかしかった。

居酒屋での1次会が終わり、殆どのメンバーが2次会のカラオケへと流れるようだったが、私は適当に理由をつけて1次会で帰ることにした。一人、みんなとは逆方向に進んで歩く。すっかり営業時間が終わっている商店街は昼間のような活気はなく静かで、歩く度に私のヒールの音がよく聞こえる。さっきまで賑わって騒いでいたのが嘘のような静かなこの空間が寂しく感じて、おもむろに鞄から携帯電話を取り出すと、恭介に電話をかけた。

「…あ、もしもし。恭介?」

いつもならなんとも思わないのに、電話が繋がっただけで何故か浮かれている自分がいる。

『どうしたぁ――?』

おまけに恭介の声を聞いただけなのに胸がドキドキする。
なんだろう……嬉しくてたまらない。

「今、そっち向かってるから」
『2次会行かなかったの?』
「うん」
『もしかして……俺に遠慮した?』
「そうじゃないよ。私が――早く、恭介に会いたかっただけ」

お酒が入っているからなのか、普段なら絶対言わないことを私は自然とこぼした。

『……………もしかして、ゆら、酔っぱらってる?』
「ふふふ。そうかも。なんか今、すっごく気分いい」
『そっか』
「うん」
『ゆら』
「なに――?」
『早くおいで。俺も会いたい』

30も過ぎた大人だっていうのに、女子中高生のように胸の中がきゅん…と可愛い音を立てて跳ねた。
意味も無く泣きそうになって、早く恭介の顔を見たい。
そして、早く抱きしめて欲しい――――