二人の大切なもの Omake(1)

時々ゆらは、俺を困らせることがある。
付き合ってすぐの頃。俺がHBプロダクションのオーディションに受かって養成所へと通い始めた時、突然「学校の友達には別れたことにしよう」と言いだした。なんでも自分と付き合っていると誰かに知られたら俺に汚点がつくらしい。そんなこと思ったこともないし、むしろ“ゆらの恋人”っていうことは自慢に近いことなのに、ゆらはたまにそういうネガティブな発想をして俺を困らせる。この時はどれだけ「そんな必要はない」と言っても聞いてもらえず、これがきっかけで大きなケンカへと発展した。今思えば、これが初めての大きなケンカだったかもしれない。
結局、別れるか続けるかの二択になった時、別れるのが嫌だった俺がゆらの意見を飲んだ形で終止符を打った。そのくだらない嘘のせいで10年も親友に嘘をつき通すことになるんだけど、あの時の俺達はそんなに長くつかなきゃいけない嘘になるとは思ってもいなかった。

それから10年以上も付き合っていると色んな場面で困らせられることがあったけど、まさか結婚してまであるとは思わなかった。
結婚2年目に入って俺らに子どもが授かった。ゆらには絶対言えないけど……今まで結構いい加減だったわりには一度もそういう類の話をゆらの口から聞いたことがなかったから、俺達にはどこか無縁な感じがしていて、子どものことは正直考えないようにしていた。だから妊娠したと聞いた時は単純に凄く嬉しかったんだよ。――――なのに、ゆらは相変わらず俺より難しいことを考えていて、一人で抱え込んで、芽生えたばかりの小さな命と向き合わなかった。
たぶん、もしかしたら、母親の覚悟というよりも……責任感の強いゆらのことだから、子どもの人生を背負える覚悟が出来なかったんだろう。と思う。
バカだなぁ……もっと気楽に考えればいいことなのに。
でも、ゆらには出来ないんだろうなぁ…………

ゆらは自分で手に負えなくなると逃げることがある。自分の気持ちに蓋をして見て見ぬふりをする。気づいた時にはそれが大きく膨らんで大変なことになるのを未だに学ばない。頭が良いくせにそういうところは学習しないんだよ。
あの時もそうだった。ずっと俺の仕事を快く思っていなかったくせに、俺のことを思い応援していたフリをして、結果自分の傷を深くしていた。
もう少し器用に出来たら楽になるんだろうけど……
そういう不器用なところがゆららしいっていうか、可愛いところでもあるんだよなぁ……
まぁ……たぶん、これからも時々俺を困らせるんだろうな。

「お手柔らかにお願いしますよ。ゆらちゃん」

ベットの右側で大きなお腹を抱えて眠っているゆらの寝顔を見ながら、俺は微笑む。
ゆらの寝顔を見ている時が、俺の密かな癒しタイム。
どんなに仕事で疲れて帰ってきても、嫌なことがあっても、ゆらの寝顔を見ていると幸せな気持ちになる。
来月にはもう一人増えて、俺の幸せは倍になる。


HAPPY END
(2014/6/14)